【第78回】 守備妨害? 走塁妨害? どちらでもない?

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UDCルールクイズをご覧の皆さん、こんにちは。  MLBに少し遅れて、マイナーリーグもNPBも開幕しました。私、濱野太郎は、昨年までこの時期には渡米していたので4年ぶりの花粉との対峙です。野球シーズンが始まって、「何故クビになったんだろう」という気持ちと難航する再就職という現実、そしてクシャミと目の痒みで残念で悔しい気分になることもあります。一方で、春花粉が4年ぶりならば美しい日本の桜も4年ぶりです。沢山の方が被災されて現在死亡確認がとれた方だけでも1万3千人を超える中、住む家があり、妻と子どもも元気でいます。こうして物事の明るい面も見て、この現状を打破して行きたいですね。私個人としても、この国としても。 ■ クイズ78(エキスパート)守備妨害? 走塁妨害? どちらでもない?  ■ http://mlb.mlb.com/video/play.jsp?content_id=10953967 昨年の8月14日のSan Diego@San Franciscoの試合をMLB公式サイトより。 二死走者1・3塁。打者の強烈な打球を投手は二塁手の方向に弾きました。弾いた打球を処理しようとした二塁手と、1塁走者が接触しそうになりました。映像のプレイを巡って、この試合は提訴試合となりました。 さて、このプレイはアンパイアとしてどう判定すべきでしょうか? このMLBクルーのとった措置が必ずしも正しいとは限りません。彼らの出した結論に捕らわれずに、もしあなたが審判だったらどうするかを考えてみてください。 1:走者は守備機会の残っている野手を妨害したのだから、ボールデッドとし、   守備妨害で走者アウト。三塁走者の得点を認めない。 2:投手は守備機会を逸し、走者は打球が弾かれる方向までは予測できない。走塁妨害で   三塁走者の得点を認め一塁走者に二塁を与え、打者走者は一塁へ。 3:投手は守備機会を逸し、走者は打球が弾かれる方向までは予測できない。   一方で、二塁手にはまだ守備機会が残っている。双方は通常の守備と走塁の行為を   行っているので、「That’s nothing!」インプレイの状態にする。 前任者の藤原氏に好評だったので、今回も映像を使った出題にしてみました。 ○● 前回の回答(ダブルプレイ崩し) ●○ 正解は・・・ 2:妨害ではない。プレイは成立し、審判は何も宣告してはならない。 でした。 【解説】 ————————————————————————————– 公認野球規則 7.09(e) アウトになったばかりの打者または走者、あるいは得点したばかりの走者が、味方の走者に対する野手の次の行動を阻止するか、あるいは妨げた場合は、その走者は、味方のプレーヤーが相手の守備を妨害(インターフェア)したものとして、アウトを宣告される。 6.05(m)野手が、あるプレイをなし遂げるために、送球を捕らえようとしているか、または送球しようとしているのを前位の走者が故意に妨害したと審判員が認めた場合。(打者はアウトになる) 【原注】この規則は攻撃側プレーヤーによる許しがたい非スポーツマン的な行為に対するペナルティとして定められたものであって、走者が塁を得ようとしないで、併殺プレイのピボットマン(併殺の際、ボールを継送するプレーヤー。すなわち遊撃手?二塁手?一塁手とわたる併殺なら二塁手、二塁手?遊撃手?一塁手の併殺ならば遊撃手がピボットマンである)を妨害する目的で、明らかにベースラインからはずれて走るような場合適用されるものである。 ————————————————————————————–  私は、NHKの夜の「ニュース9」でこの映像を初めて見ました。(その映像は台湾の放送局ものではありませんでしたが)大越健介キャスターが「あのスライディングは頂けない!」と憤慨しながらコメントしていました。私が今回このプレイを取り上げたのは、「それは違う!」と思ったからです。  たしかに映像を一見すると、YankeesのNick Swisher選手の西岡選手に対するスライディングは許されざる反スポーツマン的行為に見えます。大越キャスターもそのような感想を持ったのでしょう。また、単純に上記の規定を読めば西岡選手の次のプレイの対象であった打者走者にもアウトを宣告すべきであるように思われます。  今回のポイントは、6.05(m)【原注】の後段の括弧内の「明らかにベースラインからはずれて走るような場合」の定義です。ここでPBUC MANUALにはどう書かれているか見てみましょう。 ————————————————————————————– PBUC MANUAL 7.4 INTERFERENCE BY RUNNER ALREADY PUT OUT If any batter or runner who has just been put out or any runner who has just scored, hinders or impedes any following play being made on a runner, such runner should be declared out for the interference of his teammate. The runner should be able to reach the base with his hand or foot if he is attempting to break up a doulble play. 7.4 既にアウトになった走者の妨害  アウトになったばかり、あるいは得点したばかりの走者が他の走者に対するプレイを妨害した場合、チームメイトの妨害によってその走者もアウトになる。もしダブルプレイを崩す企てをする場合には、走者は手あるいは足がベースに届かなくてはならない。 ————————————————————————————–  この規定によって6.05(m)【原注】の「明らかにベースラインからはずれて走るような場合」を定義づけしています。すなわちダブルプレイを崩し滑り込んだときに、塁に触れられない程離れることが「明らかにベースラインからはずれる」ことになるのです。例えば身長180CMの選手がいて、腕の長さが80CMならば、二塁を中心に左右約260CMに渡ってピヴォットマンを崩しに行ってもよいということになります。ベースに触れられない距離になって初めて「明らかにベースラインからはずれて走る」と判定されることになるのです。 この規定によって、マイナーリーグはダブルプレイを崩しに行く行為を容認しています。しかし一方で、どの程度まで許されるかの基準も明確に示して野球が「暴力ゲーム」になることも防いでいるのです。ここまで読んで頂いた上で、映像をもう一度見て下さい。 http://mlb.mlb.com/video/play.jsp?content_id=13555283 Swisher選手は確かに塁を目がけて真っ直ぐ滑っていません。打者走者を一塁で活かすためダブルプレイを崩しにいっています。しかし一方で右手で二塁ベースにしっかりと触れています。ということは一見、激しく見えるこのプレイはアメリカでは合法で、普通のプレイなのです。だからこの試合の審判は守備妨害を宣告しなかったですし、報復行為の故意死球もなく試合は以後淡々と進みました。 松井稼頭央選手も2005年にメッツで同様の怪我をしています。。今年日本球界に戻ってきた岩村選手もやはり二塁手としてピヴォットマンに入るときに大怪我をしました。 http://www.youtube.com/watch?v=6XBduEW8o5w 私は審判ですから選手の技術の優劣について語る資格はないかもしれません。しかし、岩村選手も西岡選手も走者を避けるのが上手ではないなと思いました。アメリカ野球でダブルプレイ崩しの行為が条件付きで認められている以上、自分を目がけて滑り込んでくる1塁走者を避ける技術もアメリカ野球の二塁手として必須のスキルであることは間違いありません。 気の毒な言い方ですが、西岡選手は二塁手・遊撃手として試合に参加する上で、アメリカ野球と日本野球の違いを認識しておらず、対策ができていなかったのだと思います。 野球の国際化(残念ながら野球の場合の現状は「国際化」≒「アメリカ化」です)の流れが止められない以上、各競技団体(特にNPB)がこういう野球規則に載ってこない判定のための細則をも国際化させる必要があると思います。少なくとも私がセリーグにいた2003年までは、このダブルプレイ崩しに関する取り決め事項は存在しませんでした。ノウハウが無いのなら、UDCがお手伝いできますよ…。 ————————————————————————————– ここまで書いていたら、Wall Street JournalのJered Diamond記者もこのプレイについての問題提起をしているのを見つけました。 http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703518704576258822289290998.html#articleTabs%3Darticle 【拙訳】 ニック・スウィッシャーが2塁に滑り込んでミネソタ・ツインズのルーキー西岡剛の足を折ったとき、野球の専門家達は気骨のあるプレイであると書いた。しかし、先例を見ると日本人の内野手が大怪我をした様子は似通っている。西岡が怪我をした状況は憂慮すべき状況であることを暗示していないだろうか。 今まで4人のミドルインフィールダーが大リーグでプレイした。そのうちの三人、西岡・松井稼頭央・岩村明憲の三人はかなりの時間を相手チームの攻撃的なスライディングの結果DL入りすることになった。残りの一人、井口資仁は2006年、2007年と足をすくわれて転ばされたが、大きな怪我は免れた。 日本のパ・リーグで7年間の監督経験のあるボビー・ヴァレンタイン氏はこう指摘した…アメリカにやってくる日本人内野手は、ややもすると塁周辺で頻発する危険なスライディングに準備ができていない。アメリカ人、或いは中南米のプレーヤーはアメリカンスタイルの野球に小さい頃から晒されている。ヴァレンタイン氏曰わく、ダブルプレイを崩すためには「何でもあり」と教えられてもいる。 一方、日本ではベースランナーは仲間である相手チームの選手を怪我をさせたくないために、低く滑って内野手の足首・足の甲辺りのみの接触に留めるように教えられる。西岡は最低でも向こう一ヶ月を棒に振るような激しいスライディングに晒されることは今まで殆どなかったのだ。 ヴァレンタイン氏は、彼がメッツの監督をしていた時期にマイナーリーグの巡回コーチをしていたリッチ・ミラー氏のことを述懐した。ミラー氏は当時、「DP Buster(ダブルプレイ壊し屋)」と胸に書いてあるTシャツの束を常に持ち歩いて、行く先々のマイナーリーグのチームで走者としてピヴォットマンの足を掠ってダブルプレイを崩した選手に、そのTシャツを賞として授けたのだ。そのやり方に感銘したヴァレンタイン氏は2004年にそのシャツを12枚千葉ロッテマリーンズに持って行ったそうだが、「私の手元にまだ11枚あるよ…」と彼は言った ————————————————————————————– 【ちなみに情報】 今回、西岡選手がやられたような、足を掠うスライディングを「takeout slide」といいます。 投手捕手をまとめて「バッテリー」と言うことは皆さんご存じでしょうが、ピヴォットマンになる二塁手と遊撃手をまとめて「middle infielder(s)」、一塁手・三塁手をまとめて「the corner(s)」ということもあります。 ※各団体・連盟において上記と違う解釈をとる場合があります。ご確認下さい。 ★UDC野球ルールクイズ委員会