【141回】マイナーリーグの宿題(その1)

ルール改正により、ルール・クイズ記事投稿時とはルールが変更されている場合がございます。
最新のルールをご確認のうえ、お読みいただきますようお願い申し上げます。

こんにちは。濱野です。 今まで使っていたウィルソンのプラチナがかなりくたびれてきたので、エバンスの新しいチェストプロテクターを私も手に入れました。一木くんはゴールデンウィークにブログで紹介し、7月に発注したそうですが、私は4月半ばにジムエバンス欧州クラシックにてスイスにジェイソン・クライン(元3A審判、ジムのアカデミーの事務局長兼インストラクター)が持参した試作品を見て、その場で購入意思を表明しました。どちらの注文が早かったかはともかく、いずれにせよ一木くんの物とほぼ同じタイミングで私の頼んだものも日本に到着です。 ジェイソンが「次はシンガードを考えている」とスイスで言っていたので、私はそれも楽しみに待っています。 私は今までは球審と塁審でシャツのサイズを変えていましたがこのプロテクターならばその必要もないくらい薄いです。重さは定番商品のウィルソンのプラチナ/ゴールドと同等かほんの少し思いのですが、装着感を感じさせない薄さがムレにくさや動きやすさに繋がりむしろ軽く感じます。そして小さく畳めるので、電車で移動することも多く、家の収納スペースに限りのある日本に住んでいる審判の方にはうってつけだと思います。まさにこの理由で慣れ親しんだウィルソンでなく、私はこちらを購入しました。 ただ余りにも薄いので「見た目の安心感」は、硬いプラスチックで覆われたウィルソンのプラチナorゴールドの方が上だと思います。プロテクションという点では、私のウィルソンに対する信頼は揺らぎませんし、今後もUDCはウィルソンのチェストプロテクターも良い商品なので扱っていきます。一方、UNEQUALの製品は見た目は華奢ですが、防弾チョッキにも使われるケブラーという素材が仕事をきっちりこなしてくれるようです。我らがジム・エバンスが自ら実験台となっています。 ■ クイズ141(ミドル)■ 私同様に、第一便でUNEQUALのチェストプロテクターを手に入れた日本人マイナーリーグ審判員の一木くんが、今年の始めにPBUCから出されたルールの宿題を送ってくれました。プロ野球の審判が受験するルールの問題を今回から皆さんと一緒に勉強したいと思います。 走者一塁。1ボール1ストライク。一塁走者は投手が投球する前に二塁にスタートを切った。内野手の「外せ!」という声にも関わらず、投手は投球を始めてしまった。捕手はホームプレートの前に出て投球を捕り、二塁に送球したがセンターに抜ける悪送球となってしまった。センターもボールを拾うのに手間取り、その隙に一塁走者は本塁にまで達した。(投手の全ての動作は合法だった)審判の判定として正しいのはどれか? 1.捕手の打撃妨害である。一塁走者は二塁へ。打者は1-1カウントで打撃を続ける。 2.捕手の打撃妨害である。一塁走者は三塁へ。打者は2-1カウントで打撃を続ける。 3.捕手の打撃妨害である。一塁走者は二塁へ。打者は一塁が与えられる。 4.捕手の打撃妨害である。一塁走者は得点。打者は1-1カウントで打撃を続ける。 マイナーリーグに提出する回答欄には、正しい選択肢を書く欄と、どの規定が適用されるかを書く欄もあります。お時間に余裕のある方は、どの規定が適用されるかもルールブックで調べてみて下さい。 ○● 前回の回答(本当に「アカン」のか?)●○ 正解は 2.セーフである でした。 ≪解説≫ 一塁でのプレイについては6.05(k)で、二塁でのピヴォットマンに対するプレイは6.05(m)【原注】で送球を捕ろうしている野手に対する走者の接触をある程度は制限しているのに対し、、MLBのルールブック(日本の公認野球規則はこれを訳して日本の実情に即した【注】をつけたもの)には本塁での捕手と得点しようとする走者の接触に関する規定はありません。 ということは、ルールブック上はこのプレイは合法となります。 このページは「ルールクイズ」なので、以後の解説は本来の趣旨から外れてしまうかもしれません。しかしルール的側面からだけで今回の出来事は語れないと思います。 論点1 野球はアメリカで生まれた球技である。 其々の国の文化的背景が選手たちのプレイスタイルに大きな影響を及ぼしていることは否定できない事実です。アメリカは軍事大国ですしマッチョなものを好む国だということも皆さんご存知だと思います。そして野球はそのアメリカで生まれた球技であることを忘れてはなりません。 とはいうものの米国でも、このような本塁突入のプレイについては賛否両論あります。多くの捕手が脳震盪や怪我をし続けているので、「捕手に対するコンタクトプレイは禁じられるべきだ」との声も多く聴かれるようになった一方で、「走者はアウトにならないように精一杯のプレイをしただけだ。本塁突入プレイは野球の一部でその醍醐味でもある」との声も根強く、ルール改正までには至っておらず今後もおそらく変らないでしょう。 論点2 若年層のプレイヤーに対する接触プレイについての規定 アメリカでも勿論、若年層のYouth Baseball(中学生年代までの野球)には危険防止のために明文化された「Mandatory Slide Rule」があるようです。それはすなわち、野手がボールを持ち走者にタッグに行く瞬間から、そのタッグプレイの対象になった走者は野手との接触を避けるために必ずスライディングをしなければならないというルールです。これに違反して滑り込まなかった走者はアウトを宣告されます。審判が走者が守備側のプレイヤーを怪我させる目的でこのルールに従わなかったと判断した場合は、その走者に退場を宣告するというものです。 ところが、アメリカの高校野球を統括するNational Federation of State High School Associations(NFHS)のルールには、この「Mandatory Slide Rule」はありません。 ちなみにアメリカの多くの大学のスポーツを統括するNCAAのルールでは、捕手がボールを持って塁を塞いだときは走者は本塁に触れるためならば捕手との接触は許されるが、腰より上への接触は不可で、また捕手が持っているボールを落とさせる目的での体当たりは禁止されています。(退場になります) 論点3 国際大会でどの程度のルールの擦り合わせができていたのか? スポニチの記事です。 http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2012/09/07/kiji/K20120907004067160.html ——————————————————————————– ◇18U世界野球選手権第8日 日本5―10米国(2012年9月7日 ソウル)  「あのプレーはないなと思いますね。あれじゃあうちの選手が怪我しちゃいますから」。日本代表の小倉監督は苦言を呈した。  日本が1点リードして迎えた7回、米国は無死二、三塁からゴロの間にホームを狙った三塁走者が捕手の森に体当たり。森はボールをこぼさなかったものの、負傷して一時試合が中断した。  完全にタイミングはアウトだったが、肘を突き出すようにした危険なタックルで、日本の高校野球ではまず有り得ないプレーだ。同点に追いつかれ、1死一、二塁から右前打を浴びると、クロスプレーで再び森は危険なスライディングをくらい吹き飛ばされた。  結局この回逆転を許し、その後守備では本塁送球を避けるシーンも。ルールの範囲内とは言え、あまりに荒っぽいプレーに小倉監督は「あのプレーで一つおかしくなったなって思いますね」と苦々しげに振り返った。 ——————————————————————————– 「あのプレーはない」というのは小倉監督の意見であって、日本の捕手の森くんに体当たりをしたアメリカの選手にとってはそれをすることが「当たり前」であって「アカン」という意識は全くなかったと思います。(小倉監督を批判しているのでは無いので誤解しないでください) ちなみに本塁でのタッグプレイが予想される場合、米国のほとんどの捕手はマスクを外しません。体当たりされた場合の衝撃緩和のためです。映像で取り上げたプレイでも森くんがマスクをしていれば米国選手の肘が顔に入ることは無かったかもしれません。 私は当事者ではないのでわかりませんが、このような、それぞれの地域で異なる認識の違いを大会前に調整する場があったのでしょうか?異なる野球観を調整する場がきちんと持たれて、それが現場に正しくフィードバックされていれば試合後に小倉監督はこんなコメントを発することはなかったのではないでしょうか? せっかく世界中から同年代の若者が野球という競技で切磋琢磨しながら国際交流を図る良い機会であったのに事前の打ち合わせが不十分であったために、遺恨が残ってしまうとしたらこんなに残念なことはありません。 論点4 審判という立場で考える 日本は野球が盛んな国です。国際大会に審判として派遣された場合、中立性確保のために審判は自国チームの試合の審判を外れるのが通例です。となると、例えば日本の高校野球の規定では監督が直接抗議できないことになっていますが、国際大会ではそれでは通用しないはずです。例えば、マッチョな文化を背景にしてアメリカの高校生が故意に死球を当ててくるといった事態も想定されます。そうしたときに退場を含む毅然とした対応が取れるでしょうか? 今はどの年代においても国際大会が開かれています。審判として、時として世界とかけ離れた国内の内規にどっぷりつかってしまっていてはこのような国際大会に適応できなくなってしまうのではないでしょうか?どの年代でも「国際化」を念頭に置いたジャッジができる審判を養成して行くことが大事ですし、選手のためにもなると私は今回のこのプレイを見て思いました。 審判がしっかりした仕事をするためには、大会前の話し合いで外国人と議論できるだけの度胸と語学力といったものも必要になるとも思います。 ※各団体・連盟において上記と違う解釈をとる場合があります。ご確認下さい。 ★UDC野球ルールクイズ委員会 -PR-国際標準の審判法に興味のある方は、こちら -PR-